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第6回: 経験から学ぶ

 1月のサッカーアジアカップでの日本の優勝はW杯での16強進出と同様に盛り上がりましたね。更にその後の長友佑都選手のイタリアの名門インテル・ミラノへの移籍には驚きました。W杯後、サッカー日本代表選手の海外移籍が増えていますが、中でも特にドイツ・ブンデスリーガでの活躍が目立っています。一時期、スペイン、イタリア、イングランドといった世界有数のリーグに挑戦した選手の多くは、その大きな壁に阻まれました。ところが、日本人の俊敏性、勤勉さが屈強な大男が多いブンデスリーガでは重宝されているのです。どうやらサッカーにも国民性による相性があるようですね。

 巡り合わせが悪く、ドイツ、南アフリカでのW杯では目立った活躍はできませんでしたが、イタリア、スペイン、スコットランドと3つの海外のリーグでプレイして成功した選手に中村俊輔さん(現横浜Fマリノス)がいます。決してフィジカル面で優れている訳ではない彼がどうしてプロサッカー選手として成功し、しかも海外で活躍できたのでしょうか?彼は自著の中でその秘訣を、素早く状況判断して相手よりも先に動き出すことだと述べ、「察知力」と呼んでいます。では、彼はその能力をいつ、どのように身につけたのでしょうか?

 彼は幼稚園からサッカーを始め、中学になると日産FCのジュニアユースチームに加入しました。中2の終わりころから試合に出られるようになり、個人技に自信があった彼は自分のやりたいプレイばかりやっていたそうです。しかし、次第に先発から外されていきます。そして、中学卒業後、ユースチームへ上がるメンバーにも選ばれませんでした。実は、当時、チームの方針はひとりでボールを持ち続けるのではなく、パスを繋いでいくような組織的サッカーへと変わっていたのです。
 彼は試合から外された当初、「なんでだよ。俺のほうが巧いのに」と不満に思っていましたが、ユースへ昇格できないことが決まった後、チームの戦い方の変化の兆しをとらえて、察知し、準備できなかった自分に原因があったことに気づきます。もし、試合から外された直後に原因を察知し、気持ちを切り替えて頑張っていたら、ユースへ上がれていたかもしれない。そういう“かもしれない時間”を無駄にしたと感じました。そして、この経験があるからすべての時間をもったいないと感じるようになり、それ以降、常に周囲の状況を把握し、未来を察知して、準備しようと考えるようになったそうです。

 不調のため出場の機会がほとんどなかった南アフリカのW杯でも、彼は腐らずにゲームに出ている選手に水を持っていったり、アドバイスや激励をしていたそうです。帰国後当初、多くを語らなかった彼はしばらくして「現実を受け入れるのはとても辛かった。期間中も試合のことではなく、帰国後にどんなトレーニングをすればよいかをノートに書いていた。でも、過去、試合に出られない先輩が必死に僕らをサポートしてくれるのを見てきた。今回も(川口)能活さんは毎日、僕の部屋に来てくれた。今回のW杯は人として成長させられた場だったと思う」とインタビューで語っています。美容室に置いてあったスポーツ雑誌「Number」でこのインタビューを読んで思わず目頭が熱くなりました。今後、彼は素晴らしい指導者になるのではないでしょうか。

 コルブという学者は、学習を「経験を変換することで知識を創りだすプロセス」と定義した上で、以下の4つのプロセスからなる経験学習モデルを提示しています。コルブによれば、個人は①具体的な経験をし(具体的な経験)、②その内容を振り返って内省することで(内省的な観察)、③そこから得られた教訓を抽象的な仮説や概念に落とし込み(抽象的な概念化)、④それを新たな状況に適用する(積極的な実験)ことによって学習します。ここで重要なのは、経験そのものよりも経験を解釈して、そこからどのような法則や教訓を得たかということです。中村俊輔さんは中3の挫折経験で経験学習のサイクルを回し、「察知力の重要性」という大きな教訓を得ていたのです。

 昨夏、私がCMWと別に参加しているキャリアに関する自主研究会(CDCと呼んでいます)で、ある都内の私立大学の2、3年生20名に対して、本人が認識している強みや弱みが過去のどのような経験から形成されてきたのかを調べるため、一人60分程度のインタビューを実施しましたが、経験学習に関して、とても興味深い結果を得ることができました。
 それは、しっかりと自分の強みを認識できている(自己効力感が高い)学生ほど過去(中学、高校)の経験、特に失敗や挫折の経験から教訓や学びを得て、次に生かして自信を持つようになっており、一方、自己の強みが認識できていない(自己効力感が低い)学生では、失敗経験から教訓や学びを得られず、恐れや羞恥心等のネガティブな感情により経験学習サイクルがうまく回っていないケースとそもそも失敗や挫折あるいは成功と呼べるような経験がないケースがありそうだということです。
 この知見は特に若年者のキャリア開発を支援する際に大きなヒントになると思っています。CMWの活動でも有効な経験学習のあり方、その仕掛けについて議論していければと思っています。

参考文献:「察知力」(著)中村俊輔(幻冬舎新書)
「経験からの学習」(著)松尾睦(同文館出版)
「Number 769 2011 1/13号」(文藝春秋)

*三橋明弘氏によるキャリアマネジメント徒然草」第1弾のコラムは、今回をもちまして最終回となります。次回より、「キャリアマネジメント徒然草」第2弾をスタートする予定です。

第5回: 旭山動物園から学ぶこと

 TVの気象情報を見ていると、「この時期、松江はずっと雪か、富山も寒いな」などと旅行や出張で訪れた土地が気になったりしませんか?昨秋、出張で訪れた北海道の旭川はこの時期はまさしく厳寒です。
 出張先は小樽だったのですが、翌日が休日だったので旭川市郊外の旭山動物園まで足を延ばしました。旭山動物園についてはTVや映画で取り上げられ、関連書籍もたくさん出版されていますが、年間300万人が訪れるこの動物園の最大な特徴である「行動展示」を私も一度、実際に見てみたかったのです。
 勢いよく泳ぐペンギンたちを大水槽の下から見上げると確かに空を飛んでいるように見えますし、屋外でのよちよち歩きとのギャップがとても新鮮です。アザラシ、ホッキョクグマ、ライオン、オランウータン、ニホンザルなど他の動物園で一度は見たことがある動物たちも「見せ方」が一味違うので、ついついじっくり見てしまいます。

 見所はたくさんあるのですが、一番、印象に残ったのは園のところどころにある「旭山動物園のこだわり」という掲示板でした。そこには、動物園には“種の保護”という役割があることや旭山動物園では決して動物に芸をさせないこと等ポリシーが小さな字でぎっしりと書かれています。そして、最後に「野生動物のかわいらしさの他に、美しさ、すばらしさ、尊さを感じ、共に生きていこう!という気持ちを感じてもらえたらうれしいです。」と結ばれています。
 ここまで決然と経営理念を明示する姿勢に感動し、掲示板を写真に収めましたが、写真を撮っているのは私だけではありませんでした。理念が共感を呼び、共感が人を集める。旭山動物園の経営の本質に触れた気がしました。
 そんな旭山動物園も10年前までは来園者数が落ち込み、廃園の危機でした。しかし、市の予算がつくあてもない中、飼育員たちは夜中まで「こんな施設があったらもっと動物のすばらしさ、すごさを知ってもらえる」と夢を語り合い、絵が得意だった一人がアイディアをスケッチとして描いていきました。これが後に当時園長だった小菅正夫さんが新市長に面会した時に大いに役に立ったのです。
 小菅さんは14枚あったスケッチを市長に見せて、夢中で自分たちが考える理想の動物園について説明しました。当初、面会時間は30分の予定でしたが、結局2時間にもなったそうです。この面会をきっかけに旭山動物園の奇跡ともいえる復活が始まるのです。

 このエピソードは、我々に2つの教訓を示してくれます。
 一点目は、チャンスはチャンスの顔をせずに突然やってくるということです。新市長は当初、水族館の建設が頭にあったようで、動物園に予算をつけようとは思っていませんでした。市長からすれば単なる意見伺いの場だった面会をチャンスに変えたのは小菅さんの熱意と粘り強さだったと思います。
 二点目は準備の大切さ。市長との面会の機会を得ても、思いだけで自分たちのやりたいことがはっきりと示せなければ市長の気持ちは動かせなかったでしょう。実行できなくても諦めずに楽観的に“いま出来ることをやる”こと(この場合、思いを形にすること)がいつか明日に繋がるのではないでしょうか。旭山動物園復活の陰には、プランドハプンスタンスセオリーとも共通する関係者の姿勢があったのですね。

参考文献:「未来のスケッチ」(著)遠藤功(あさ出版)
「<旭山動物園>革命」(著)小菅正夫(角川oneテーマ21)

第4回:「はやぶさ」からのメッセージ

 いろいろなことがあった2010年も終わり、新しい年が始まります。皆さんにとって2010年はどんな年でしたか?どんなことが印象に残っているでしょうか?

 暗い話題も多かった2010年でしたが、明るいニュースとしては小惑星探査機「はやぶさ」の地球への帰還が印象に残っている方も多いのではないでしょうか。7年間という歳月をかけて月以外の惑星(イトカワ)に着陸、離陸して、地球に戻ってきたということだけでも奇跡的なのに、イトカワの表面の微粒子も持ち帰ってくるという人類初の快挙を果たしたのです。当初、私ははやぶさにそれほど高い関心を持っていたわけではなかったのですが、産業医の先生が「はやぶさくん」の帰還について熱く語る様子に感化され、その後、関連記事や書籍を読み、「はやぶさ」チームの宇宙科学技術者たちの不屈の精神やすさまじいばかりの努力とそのオリジナリティが高い先端技術に感動し、多くの人がこの無人の機械を擬人化して「はやぶさくん」と親しみをこめて呼ぶ気持ちがわかりました。

 今回のはやぶさの偉業において、私が感銘を受けたことを二点挙げたいと思います。
 一点目は、はやぶさのエンジンとして世界の誰も実現していない新しい「イオンエンジン」に挑戦し、見事にその性能の高さを実証したこと。「アメリカの技術の丸写しでは、うれしいことは何一つない」と研究の先進性、独自性を追及しました。一昨年の事業仕分けの際の「二番目ではいけないのですか?」という発言にこの国の停滞の根っこを感じた私でしたが、この開発チームのこだわりには溜飲が下がる思いでした。
 二点目は、「面白いと思う心」を大切にすること。はやぶさは小惑星「イトカワ」に着地するために、小惑星にレーザー光を照射し、さらにカメラで小惑星の表面を撮影し、その画像をコンピュータで分析しながら、自身の位置を知るのですが、小惑星の表面は暗くて見えにくいので、上空のはやぶさから「ターゲットマーカー」という反射シートを貼った小さな「球」をまず小惑星に落とし、目印にしようとしました。しかし、「イトカワ」は小さな星で重力が地球上の約10万分の1しかないため、ポトンと落とした時に少しでも跳ね返るとそのまま宇宙の彼方に飛んでいってしまうので、跳ねずにぴたっと止めるための方法が難題でした。そこで、メンバーはいいアイディアはないかと勤務時間後に「トイザらス」や「東急ハンズ」に通ったのですが、これがとても勉強になったのだそうです。宇宙技術もおもちゃのメーカーの開発も同じで、好奇心を持って「あれができないか、こんなことができるはず」と、面白がる心が大切なのだとメンバーの一人は語っています。
 いろいろなアイディアが出され、結局、日本の伝統的遊び道具である「お手玉」の構造が採用になりました。「お手玉」は中に詰めてあるたくさんの小さな玉が落とした時に衝突しあい運動エネルギーが外に働かないので跳ねないのです。実際には薄いアルミで作った球の中にポリイミド樹脂の玉を50個入れた構造になりましたが、このアルミの球を作るのにも日本の町工場のワザが活かされたのです。とてもワクワクして元気が出るエピソードですね。

 話は変わりますが、YouTubeに投稿されている「Did you know?」という動画をご存知でしょうか?この動画では、「10年後、世界で一番英語が話せる人が多い国は中国になること」、「インドの“IQが高い側から25%”はアメリカの全人口より多い。つまり、アメリカに生まれる全ての子供よりインドに生まれる優等生の方が多い。」といった衝撃的な事実をデータで紹介しています。元々は米コロラド州の高校職員向けに作られた動画で、指数関数的なスピードで変化する時代に教育がどう対応していくべきかを真剣に議論しようと呼びかけています。まだ、ご覧になっていない方には日本語訳がついているバージョン3.0をお勧めします。
時代の劇的変化にこれからの日本はどう対応すべきなのでしょうか?多くの人が「競争」という言葉をネガティブに捉え、安易に「自分らしさ」に逃げ込み、一方で、結果の「平等」を求めるような国は世界で生き残っていけるのでしょうか?年始休暇の機会に、日本の強み、日本人らしさとは何かを問い直し、今後、キャリア開発という領域で自分に何ができるのかを考えてみたいと思います。

参考文献:「はやぶさの大冒険」(著)山根一眞(マガジンハウス)
「Did you know 3.0 Japanese」(日本語訳版は4.0まであります)
http://www.youtube.com/watch?v=kj9pR_b3u4E

第3回:夏の思い出

 最近、寒くなったので、だいぶ記憶も薄れつつありますが、今年の夏は記録的に暑かったですね。私は8月に休暇を取り、上高地に行ってきました。最近、写真に凝っており、風景撮影が目的の一つです。早朝6時前、妻を起こさないように(でもたいてい起こしてしまうのですが(笑))準備をしてホテルを出発し、朝霧の中を河童橋まで20分ほど歩きます。「どんな景色が撮れるかな?霧よ、晴れてくれ!」祈るような気持ちとワクワク感で自然に早足になります。今の私にとって最も充実した瞬間かもしれません。運よく朝霧が晴れ、山頂が朝日に輝く穂高連峰を撮影できて、満足感一杯の帰り道、ふと不思議な感覚にとらわれました。「そういえば、この感覚って子供の頃と一緒だな・・・」

 私は小学校の頃、虫取りが大好きでした。特にクワガタ、カブトムシを捕まえて飼育することに熱中していました。普段は早起きが苦手で、ラジオ体操も眠い目をこすりながらいやいや出掛けていたのですが、クワガタ取りに行くときだけは何故か4時半でも自然に目が覚めてしまうのです。そして、まだ薄暗い夏の夜明け、近くの森林公園に向かう時のワクワク感が写真撮影に向かう自分と重なり、夏草の匂い、こんもりとした木々に囲まれた公園の急な階段の風景が突然、蘇ってきました。

 旅行から帰ってしばらくして、今年1回目のキャリア研修の準備のため、カードソート法であらためて自分の価値観を振り返る作業をしていて、新しい発見をしました。自分が選んだ大切にしたい価値観には皆、少年時代に原経験があり、大きく2つの軸で成り立っていたのです。ワクワク、自律的、創造的、時間の自由といったキーワードは、虫取りや模型作りに没頭していた内向の自分(かなりオタク的)、もう一つの軸が、影響力、協力、信頼、支援といったキーワードで、これは外向(社会性)の自分です。小学校低学年まで引っ込み思案で友達が少なかった私が草野球で幸運にもファインプレイをして、皆に認められたのがとても嬉しくて自信になったことを今でも鮮明に覚えています。あの体験がなかったらと思うとゾッとするのですが(笑)。また、この社会性を形成している価値観は学習によるものなので、時々、付き合いがつらく感じるのは本来の自分にとって無理している状態のサインであることもあらためて理解が出来ました。

 最近、ベストセラーになっている「モチベーション3.0」には、『人には生来、(能力を発揮したいという)有能感、(自分でやりたいという)自律性、(人々と関連を持ちたいという)関係性という三つの心理的要求が備わっている。この要求が満たされているとき、わたしたちは動機づけられ、生産的になり、幸福を感じる』とありますが、今回の振り返りで実感できました。仕事の場面で考えると職種や立場とは関係なく、調査して独りでじっくりプランを練る時間(内向)と仲間と目標に向けて協働する時間(外向)のバランスが私にとってモチベーションの源であることも再認識しました。
 皆さんにもあらためてご自分のワクワクや有能感の原点を振り返ることをお勧めします。そして、何か新しい発見があることを願っています。


参考文献:「モチベーション3.0」(著)ダニエル・ピンク(講談社)

第2回:Connecting dots(点を繋ぐ)

 皆さんはすでにiPadをお使いでしょうか?私は残念ながら、まだiPodしか持っていません(笑)。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのアップルコンピュータのCEOが、スティーブ・ジョブズ氏です。最近、彼のプレゼン指南本が書店にたくさん並んでいますね。
今回は彼のキャリアを簡単に振り返ってみたいと思います。

 彼はリード大学に入学するものの、学ぶ価値を見出せずに、特に目標もなく半年で退学してしまいます。その後、同じキャンパスでカリグラフィ(飾り文字)と出会い、その美しさに魅了され、夢中でそれを学びます。10年後、マッキントッシュ・コンピュータを設計する際にこの経験が活き、美しいフォント機能を備えた世界初のコンピュータが生まれることになるのです。

 起業家として大成功したジョブズ氏でしたが、スカウトしてきた経営幹部との経営ビジョンの相違から、30歳で自らが創業した会社であるアップルを追い出されてしまいます。天国から地獄に落ちるほどのショックを味わった彼ですが、NeXT、Pixarという会社を立ち上げ、再起します。Pixarは「トイストーリー」で有名なアニメーションスタジオです。そこで、妻となる女性と出会い、その後、アップルがNeXTを買収することになり、意図せずにアップルに復帰することになります。こんな紆余曲折を経験してきた彼が2005年に行ったスタンフォード大学卒業生に向けた祝賀スピーチはとても有名で、YouTubeにも投稿されていますので、ご覧になった方もいらっしゃると思います。印象に残るフレーズはいくつもあるのですが、私にとって最も印象に残ったのは次の一節です。

 「未来に先回りして点と点を繋いで見ることはできない。できることは過去を振り返って繋げることだけだ。だから、点と点が自分の歩んでいく道のどこかで繋がっていくことを我々は信じなければならない」

 私はこの一節を「自らの経験をどう意味づけて、明日に活かすか」と解釈しています。ユング心理学に「constellation(布置)」いう考え方があり、「一見、無関係に並んでいるとしか見えないものが、あるとき、全体的な意味を含んだものに見えてくること」をいいますが、「constellation」はもともと「星座」という意味です。太古の人々が不規則に散らばっているたくさんの星の中から、いくつかの星同士を繋いで有意な形とすることで壮大なストーリーを紡いでいったのは、まさに「意味づけ」のなせる業です。

 多くのキャリア研修には「充実曲線」とか「ライフラインチャート」と呼ばれる過去の経験を振り返るセッションがありますが、夜空に輝く星座を眺めるように、一つ一つの貴重な経験(星)を繋ぐことにより、将来に向けて、自らのストーリーを紡いでいくと考えるとなんだかロマンチックな気分になりますね。


参考:YouTube「Apple創始者・スティーブ・ジョブズの伝説のスピーチ(1)
※スピーチは(1)と(2)に分かれています。日本語字幕もついています。

第1回:価値観を仕事に活かす

 皆さん、はじめまして。これから6回、「キャリアマネジメント徒然草」のコラムを担当することになりました三橋です。営業から職業人生をスタートして、企業人事・教育を比較的長く経験してきました。現在、ファシリテーターを担当しているキャリア研修の中で話しているネタを中心につれづれなるままに?書き付けていきますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

 箭内道彦さんという方をご存知でしょうか? 現在、NHKの土曜日深夜の「トップランナー」でMCをやっている金髪のおじさんといったら「あ~、あの人」と思い出す方もいらっしゃるかもしれませんが、本業は、森永製菓の「ハイチュウ」のCMや「きっかけは、フジテレビ」など多くの広告を手がけたクリエイティブ・ディレクターです。

 現在、多方面で活躍中の箭内さんですが、大学卒業後、入社した大手広告代理店で7年以上成果が出ず、悶々と働いていました。当時の箭内さんは、「自分の個性は何だろう?」「こだわりを貫いて仕事をしなければ・・・」とあせっていました。一方で、嫌われたくなくて、相手に合わせてしまう自分の性格の弱さにも悩んでいたそうです。周囲に実力のある個性的な先輩がたくさんいるのですから、箭内さんがそう思うのも当然だと思います。

 ところが、ある仕事をなんとかまとめた後に仕事相手が発した何気ない一言をきっかけに、箭内さんの仕事に対する姿勢は大きく変わります。その一言で全てが救われた気がしたとも語っています。その一言とは「やあ~、今日も出ましたね!箭内さんの合気道」。

 合気道とは技を仕掛けてくる相手の力を利用することを極意とする武道です。その仕事相手は、「今日も箭内さんが自分の思っていたことやニーズを見事に引き出してくれた」と言いたかったのでしょう。この一言で箭内さんは「力まずに相手の力をうまく使う」のが自分の持ち味であることに気づきます。ここから、箭内さんの快進撃が始まったのです。

 このエピソードは「ものの見方」の転換の重要性を見事に語っています。不調な時期に箭内さんが意識していた「個性やこだわり」はクリエイターとしての役割上の価値観(~でなければならないといういわばmustの価値観)と言えます。一方、「嫌われたくなくて、相手に合わせてしまう」のは、箭内さんが持っていた本来の価値観(柔軟性や協調性)の表れと言えます。仕事上は弱みと認識していた自分の価値観や姿勢が見方を変えただけで強みに転換したのです。これは、論理療法やゲシュタルトの考え方にも通じると思います。

 ひとの価値観を変えることは容易いことではありません。しかし、その価値観をどのように活かすのかは考え方次第です。異なる視点を提示することにより、クライエントのものの見方を広げることはキャリアカウンセラーの重要な役割です。クライエントの価値観を理解し、仕事への活かし方を多角的に考えられるように支援できるキャリアカウンセラーを目指したいものです。


参考文献:「サラリーマン合気道」(著)箭内道彦(幻冬舎)

三橋明弘氏 プロフィール

 三橋明弘と申します。
メーカーの営業から職業人生をスタートして、企業人事・教育を比較的長く経験してきました。現在はグループの人材ビジネス会社で働いています。1990年代後半からキャリア開発に関心を持ち、まずはじめに産業カウンセラー、その後、CDAの資格を取得しました。

 会社では、有志によるキャリア施策検討プロジェクトに参画し、キャリア研修の企画、実施、フォロー面談等を行ってきました。また、他社の企業人事、教育担当者の有志によるCDCという自主研究会にも参加しています。
この研究会では、主に大学生に対するキャリア支援のあり方を研究しており、共同でキャリアデザイン学会等での学会で論文発表を行ってきました。10年余り、この分野で活動しているわりにカウンセリングスキルも知識も進歩していないことを最近、反省し、学び直しをしている最中です。

 CMWには様々な領域で活動している方がいらっしゃるので、新しい情報や出会いを楽しみにしています。どうぞ宜しくお願いします。